「だからこの式にはこれを当てはめてだなー…」
授業も終盤にへと入り、早く終わってくれないかと今日何回思っただろう。
視線を移し時計を見上げると、先ほどから5分も経っていない現実に軽いため息が出る。
そんななか時折聞こえてくる、規則正しい寝息の音が俺の耳を通り抜けた。
ーーそう。俺の前の席に座っている我がマネージャーは只今爆睡中。
堂々と机に突っ伏して寝ている姿を見ると、なんだかこっちまで眠くなってくるのは自然の道理だろう。ボーっとしながらの背中をしばらく見つめていると、ようやくチャイムが校内に響き渡る。
周りはガヤガヤとうるさくなり始めるが、いくら経っても目を覚まさないマネージャーが気になり、仕方なく声をかけることにした。
「、もう授業終わったぞ」
肩を叩くとようやく目を覚ましたのか、少しずつ姿勢を正していき大きな欠伸を一つ零していく。
「あー…ありがとー阿部くん」
眠そうな目をこすりながら、礼を言うに少し違和感を覚えた。
日頃から真面目に授業を聞いてるコイツが、全授業を使って寝るなんて有り得ない。
ー…何か理由があるのか…?
「珍しいな、が寝るなんて」
「あー…昨日ずっとデータの整理をしていたからー…」
首を回しながらまた大きな欠伸を一つ。
「え、データって…」
「次の練習試合の相手のデータ。一応まとめた方がいいよねって、って思って昨日ずっとやってたんだー」
「……一人でやってたのか?」
「うん。千代ちゃんも他の仕事していたし、あたしにもわかるやつだったから、一人でやろうかなーって」
ー…そっか。俺も配給の組み立てでデータを見て研究するけど、部のためにはデータを作らなきゃいけないんだ。
それがマネージャーの仕事だって言ったら終わりだけど、自分の睡眠時間を削ってまで俺たちを助けてくれる。
「マネージャーって大変なんだな…」
「まぁーね。でももう慣れたし、みんなの役に立てるだけであたしは幸せなんだー」
その笑顔を見た瞬間、気持ちが晴れるような、すがすがしい気持ちになった。
罪悪感がないわけではない。
ただマネージャーに対して感謝の気持ちはあっても、それを言葉にする機会はほとんどないに等しい。
だからのなのか。
気づいてたら、自然と言葉を発していた。
「ー…あんがとな」
自然と出た言葉だった。そしてすぐ冷静になる自分がいる。
うわっ、ありがとうって改めて言うの、結構ハズイいな……。
「えへへ、阿部くんに言われるとなんか照れるなー」
さらに柔らかい表情を作るは、こっちまで温かい気持ちにしてくれる。
俺も何か言葉にしようと、口を開こうとした時だった。
「阿部ーここ教えてー」
「あれ、水谷くんどしたのー?」
俺との間を入ってきた水谷に、若干助かった反面、相変わらず空気読めねーヤツだなとふと思う。
「ったく、何わかんねーんだよ」
水谷が持ってきた教科書に目を移し、少しでも今さっきの話からずらそうと、そう思ってたのに。
「あれ、阿部顔赤くない?」
水谷に言われ、先ほどの出来事をまた思い出してしまった。
「ーーぅるせ!クソレフト!!」
「え、何!?俺、何も言ってないよね!?」
教える気を無くした俺は教科書を閉じ、そのまま机に放った。
「ちょ、俺の教科書ッ!?」
「相変わらず仲良いよねー二人は」
どこを見てそう思ったのか分からないが、笑い出すを見て、また顔が熱を待っていく。
ー…ったく、やっぱり敵わねーな。
マネージャーはさ。