水鏡に映る三日月 | Main

水鏡に映る三日月



誰かのために、そして自分のために

毎日毎日、全身汗だくになりながらもチームの目標に向かって練習している。

辛いと思ってもみんなのやる気と自分のために、辛い練習を乗り越えて日々努力している。

ー…俺たちがこんなにも毎日野球に熱中できているのは、影で支えてくれる人がいるからだ。
私生活では家族、学校では先生や友人。そして部活では監督。


ー…そしてーー…。


誰かのために、そして自分のためにーー…。


***************


「ゴメンねー花井くん。せっかくみんなで練習してたのに…」
「あー別にいいよ。今日しのーかも休みなんだし、一人の方が大変だって」
「ありがとー。早めに買い物終わらせるからねー」

今、俺たちは学校の近くにあるスーパーに来ている。理由は米の買出し。いつもなら米がなくなる前に次の米を買い足しておくのだが、テストやらなんやらで日にちが被ってしまって買う暇がなかったため、仕方なく練習中にの荷物持ちで俺が一緒についていくことになった。
本来もう一人のマネージャーである篠岡もいるのだが、彼女は風邪のため今日学校を休んでおり、一人しか買いに行く人がいなかったせいもある。

「なぁー。いつもどんくらい買ってんの?」
「んー…大体、10〜15キロくらいかな?」
「げっ、マジかよ……ってことは毎回5キロのを3袋くらい買ってんのか!?」
「うん、そうだよー」

毎日夕方におにぎりを2つずつ食べてるから、すごい量だとは思ってたけど……まさか、そんな一気に買うとは思ってなかった…。

「ー…で、今日は何キロ買うつもりなんだ…?」
「えっーと…15キロ…かな?」

俺が質問すると、モモカンに渡されたメモを広げ淡々と答える

おー…俺、今日一緒に来てよかったー…。に15キロも持たせられねーよ…。
ってか今日はしのーかはいないけど、いつもは2人で俺たちの周りのことを全てやってくれてんだよな…。

俺たち、毎日当たり前のように野球やってるけど、それは周りの支えがあるから…なんだよな…。
本来マネージャーってそういうもんなのかもしんねーけど、一番感謝しなきゃいけない人なんじゃないのか…?

「あ、あった!」

の放った声で我に返る。の姿を目で追っていくと、いつも買ってる米の種類を見つけたのだろう、1袋5キロはする袋をどんどんカゴの中に入れていく。
計3袋を入れたカゴを持とうとするを慌てて止め、俺が持つからと言い聞かせそのままレジに向かっていった。

自分でも理由が分からないけど。少なくとも、15キロもするカゴを女の子に持たせるのは、なんかかっこ悪いなって。
そう無意識に思ってしまったから…。

「以上で4800円のお買い上げでございます」

会計のためが財布の中から金を取り出してる中、俺は色々と考え込んでいた。

ー…米ってこんな値段するんだ…。家での買い物に付き合ったことねーし、毎日食べてる米がこんなに高いってこと、今まで知らなかった。
しかも、今では父母会があるけど、前まではモモカンが全部払ってたんだろ…?

ー…俺たちのために、一生懸命働いて稼いだお金がどんどん使われてるんだ…。

「えー…っと、4千円とあと8百円ー…」
「うわ、5百円足りないや…。すいません、違う種類のと取り替えてきてもいいですか…?」
「あーいいよ。5百円くらいなら俺が出す。だから、そのままでいいよ」

モモカンから預かってきたお金だけじゃ足りなかったのか、少し慌ててるが視界に入った俺はズボンのポケットに入ってる財布を取り出し、5百円玉をレジの人に渡す。

高校生にとって5百円は大きい。しかも練習後は空腹感に負けてコンビにで何かしら買って、家に帰るまでのエネルギーを蓄えるのだから本当は大切に使わなければならない。

でも、俺たちのために頑張ってる人もいる。その人たちに少しでも恩返ししたくて。
少しずつしか返せないだろうけど、感謝の気持ちを忘れずにいたいなって、そう思ったから。

財布をズボンのポケットに戻してると、横にいるの視線が気になり、ふと目線をずらす。

「…どーした?」
「ー…花井くんってすごいね」
「ハッ?どこが?」
「花井くんのそーゆうとこ、好きだよ!」

満面の笑みで発言したのその言葉に思わず顔を染めていく。
いや、そーゆう“好き”じゃないって分かってるけどさ…!!

「ーーバ、バカ!ってか簡単に好きとか言うなよ!!」
「えーだって本当のことだもん!」

くすくす笑うを見て、さらに顔が熱くなっていくのがわかった。
俺の反応を見てか、レジの店員も含み笑いをしている姿が目に入る。
恥ずかしくて恥ずかしくて、一刻も早くこの場から立ち去りたい衝動に駆られると、すでに入れられたレジ袋を思わず掴んだ。

「ーーッ早く戻るぞ、ッ!!」
「はぁーい」

買った袋を持って早々にスーパーを出た。

外に出るとふわりと風が体を突き抜ける。だが、今の俺にとっては有り難いものであった。

のあの言葉ー…。すごく、ものすごく恥ずかしいけど、後悔はしていない…!!
毎日頑張ってくれてる監督やたちのためにも、もっと上を目指さなきゃって。

いつか“ありがとう”って胸張って言えるように。


そして、その大切な人たちに少しでも恩返しができるように。


その気持ちを大切にしようと心に誓うと、俺たちはみんなの待つグラウンドへと足を速めた。