水鏡に映る三日月 | Main

水鏡に映る三日月



木枯らしの吹く夜に

ーー11月の終わり。

木の枝についていた紅葉もだんだんと散り始め、もう冬に近づいているんだと思わされる。
ひらひらと落ちていく葉を見つめ、毎年ふと思うことがある。


ー……俺はこの時期が、一番嫌いだった。



***************



「お疲れー」
「なぁなぁ、今日もみんなで帰りにコンビ二行かね?」
「田島ー。お前昨日も行ってじゃねーか。金は大丈夫なのか?」

部活が終わると毎日のように繰り返される会話の一部。
最初に誰よりもみんなを気遣ってくれる副主将・栄口の挨拶から始まり、元気の有り余ってる田島が便乗して騒ぐ。そしてそれを止めるかのように、我が主将・花井が中間に入って田島をなだめる。

ー…そう、いたってなんも変わらない、ただ普通の日常。毎日当たり前に過ぎていく。

いつもなら俺も部活後の空腹感に負けて一緒についていくが、今日に限ってそんな気分にならなかった。

「ワリィ。今日俺は帰るわ」
「なんでー!?一緒に行くって決まってんだろ!?」
「田島っ!泉だって色々あるんだから、あまり困らせんなよ!!」
「だって!今日は昨日と比べてすげー寒いって、天気予報のねーちゃんが言ってたんだぜ!?みんなでおでん食べたいじゃんか!!」

わーわーわめく田島と花井に視線を移すと、その賑やかな光景にフッと微笑する。

相変わらず元気だよな…田島のヤツ…。花井も大変だろうに…。

「じゃ、お先」
「お疲れー泉」
「お、お、疲れ、さま…泉くん!」

さっさと帰りの支度を済ませ、みんなに一声をかける。
すると、“お疲れー”といろんな方向から聞こえる声に軽く手を振り、部屋のドアノブに手をかけた。



ピューー……



一歩外に出てみると、さっきまでいた部屋の温度とは異なり冷たい風が容赦なくぶつかってくる。
無意識に身震いを起こすと、この場から一刻も早く立ち去るように急いでチャリ置き場へと足を進めた。

ーーってかなんだよ、この寒さ…。
確かにニュースでも言ってた気がするけど、ここまで寒くなるなんて聞いてねーぞ。

ぶつくさ文句を呟いていると、その言葉に反応するかのように強い風が髪や衣服を通り抜けて追い討ちをかけてくる。
更にぎゅっと縮こまると、いつもならあるはずのマフラーが首周りにないことに気づき、さらに大きなため息を吐く。

ー…というのも、俺はとても寒さに弱い。
だからこの時期になると人より余計に着込んでくるし、コートは勿論防寒対策はばっちりとってあるのだが…今日に限ってマフラーと手袋を家に忘れてきてしまったのだ。


ー…だからかもしれない。


“今日はどこにも寄らずにさっさと帰りたい”


そう本能的に思ったから、田島たちと行く気にならなかったのだろう。

一つため息を吐くと、白い息がふわりと空中に舞う。

「ー……早く帰ろ」

寒さのせいでかじかんでる手を無理やり動かし、チャリに乗ってまっすぐ家を目指すことにした。