水鏡に映る三日月 | Main

水鏡に映る三日月



俺の居場所に「おはよう。」

「さむっ…」

寒さでふと目を覚ます。
うっすらと外が明るくなり始めている様子を見ると、どうやらもう朝らしい。枕元に置いてある携帯を手繰り寄せ開いてみると、時間は7時を差していた。
そろそろ起きなければいけない時間だと自分に言い聞かせ、まだ寝ていたいという想いに駆られながらも上体をゆっくりと起こしていく。

……あれ、そういえば4月に入って寒さも和らいでるはずなのに、なんで寒いと感じたんだ…?

そうだ。いつもは寒さで目を覚ますことなんてないのに、今日は珍しく起きてしまった。
不思議に思い目線を下の方へと向けてみると、あるはずの掛け布団が姿を消していることに気が付く。
一体どこに姿を消したのか。俺は寝相が悪い訳ではないし、寝る前にちゃんと毛布を被って寝た記憶もある。

それなのにどこに姿を消してしまったんだろうと、ふと隣に視線を移してみた時だった。

「ー………」

二人でも余るくらいの大きな毛布を、まるで蓑虫のように独占している一人の姿が目に入る。

そう、気持ち良さそうに寝息を立てて熟睡している、彼女の姿だったー……。



***************



「…さて、今日の朝飯は何にするかなー」

着替えを済ませ、いつものエプロンを身に付ける。
朝飯を作るのは毎回俺の役目。社会人であるの負担を少しでも軽くするため、俺がん家に泊まる時は必ず担当している。

今日は何を作ろうか。冷蔵庫の中身と相談して決めようと冷蔵庫を開けると、卵とホウレン草が目に入った。
…久しぶりにオムレツでも作ってみっか。はチーズが好きだしオムレツの中にチーズも入れて、後はベーコンでも焼けば十分だな。

うし、と自分に意気込み、材料を冷蔵庫の中から取り出すと早速調理に取り掛かかることにした。

ー。そろそろ起きねーと遅刻するぞー」

調理を開始して10分。未だに起きてこない彼女を心配し、一言声をかけた。
はもともと朝は苦手な方だし、この時間帯に起きてくることはまず珍しい。だけど徐々に意識を夢の世界から連れ戻さなければならないため、には悪いが大声になろうとも声をかけて起こすことはもはや習慣となっていた。

「んー…あと5分……」

声をかけるとすぐに、いかにも眠そうな声が耳を通り抜ける。
さて今日はどのくらい引き伸ばすのか。いつも5分といいながら10分15分と伸ばして、最終的には遅刻ギリギリの時間帯に飛び起きてくるもんな。

朝飯の準備も終わりが見えてくると、ようやく目を覚ましたのか目をこすりながら歩いてくるに思わず笑みを漏らす。
ー…ったく、朝に弱いのは相変わらずなんだな。

「おはよう尚ちゃん……」
「おぅ、おはよ」
「ねぇ尚ちゃん、なんか今日暑かったね」

の発した言葉に少し疑問を持つ。
ん?今朝って暑かったっけ…それより寒かったように感じたような…。

「…あっ」

つい数十分前の出来事が脳裏に過る。
まぁ、そりゃあ俺の分まで毛布を被ってたら暑かっただろうな、なんて言えるはずもなく。

「あー…それより早く飯食った方がいいんじゃね?」
「あ、本当だ!ちょっと待って、すぐ支度してくる!!」

とりあえず時間が迫ってきているため、準備を早くするよう促すことにした。



***************



「じゃ、尚ちゃんいってきまーす!」
「おぅ。いってらっしゃい」

支度を全て終わらせたは笑顔で出社しようとしていた。
それをいつも見送るのも俺の仕事。俺はまだ大学生だしは俺と違って働いてくれている。のためにせめて周りの仕事など少しでも手伝えることは積極的に取り組んでいる方だ。

「あ、そうだ。尚ちゃん今日サークルあるの?」
「いや今日は休み」
「だったら夕飯、一緒に食べない?近くにオシャレなイタリアンのお店がオープンしたのよ」

は会社に勤めてるから外食することは珍しくないし、たまに一緒に夕飯を食べることもある。
だけど平日の夜に食べることはほとんどない。次の日も仕事で疲れも残るだろうに、今日は珍しく積極的だな。

「でも明日も会社あるんだし、別に今日じゃなくても…」
「何言ってるの。今日は尚ちゃんの誕生日、でしょ?」

誕生日という単語にハッと気づく。
そうか、今日は俺の誕生日か。だから平日の今日、一緒に夕飯食べようって声をかけてくれたんだ…。

「じゃあまた後で詳しいことメールするね!!」

手をひらりとあげ「いってきます」と声に出すと、はそのまま姿を消した。

「よし、俺もそろそろ大学行く準備するか…」

が出て行った扉を少しの間見つめていると、俺自身も支度を済ませなければと伸びをして部屋へと向かうことにした。


ー…今日も良い一日になりそうだな。