水鏡に映る三日月 | Main

水鏡に映る三日月



君の笑顔が俺の力に

今日は10月16日。

毎年この日は、俺に必ずプレゼントをくれる人がいる。
その人は俺にとってとても大事なヤツで、気付いたらずっと側にいてくれた。


だからいつか、きっとーー…。



***************



「あー今日も疲れたぁ!!」
「ほんと田島はいいよなー家が近くてさ」
「へへん、いいだろー!」

部活の帰り道。疲れきってる体を無理やり動かし、各々帰宅する。家の近さを自慢するように言うと、周りから“ずりーな”と溜め息交じりの声が漏れる。
だって家から近い学校に通うために、わざわざこの西浦選んだんだもん!じいちゃんのこともあるけど、家が近いとギリギリまで寝坊も出来るし便利だよなー。俺、西浦に入れてよかった!あん時勉強教えてくれた兄ちゃん達にも感謝しなきゃだよな!

みんなといつも通りの雑談を交わしながらチャリに乗って校門を出る。みんなに着いて行くように道を曲がろうとした瞬間、俺は急に思い出したことがあったためすぐさまブレーキを握った。

「どうした、田島?」
「わり、俺今日はまっすぐ家に帰るわ!」
「珍しいなー」

いつもは疲れがあっても途中までみんなと一緒に帰るけど、今日はそんな気分にならなくて一足早く我が家に帰宅することにした。
別に今日見たいテレビ番組とかないし、早く帰る意味もないのだけど。

ただ、今日があの日だということを思い出して。それなら今日は早く帰らなきゃと自然にそう思ったんだ。

「悪ぃーな、じゃまた明日!」

軽い挨拶を済ませ、家に向かって全速力でチャリを漕ぐ。
全力で漕いだせいもあるのだろう。ものの数秒で着いてしまった我が家に、軽く苦笑してしまった。やっぱ、早く着きすぎるのもみんなに悪い気がするなー。みんなはきっと、チャリで20分以上かかるところから通ってるんだもんな。
…まぁそんなことはさておき、早く家に入ろうと玄関の扉を開ける。

「ただいまー!」

大声を出しながら家の中に入ると、玄関には一つ多くの靴が所狭しに置かれていた。うちは大家族だから一つ多くの靴があっても別に問題はないのだが、その靴はどこかで見たことのあるような靴でもあった。

「悠一郎帰ってきたのー?ちゃんが遊びにきてるわよー。」

俺がその靴を見ていると、母ちゃんの声が玄関まで響渡りきその声に反応する。

「おー!!」

母ちゃんのその言葉に反応するかのように、すぐ靴を適当に脱ぎ捨てると自分の部屋へと直行する。
なんで今の時間にが俺ん家にいるのか。そんなことよりもに会える嬉しさの方が何倍も勝っていた。

自然と早くなる足取り。ようやく見え始めた目の前にそびえる扉を俺は勢い良く開いた。

!」
「あ、悠ちゃんお帰りー!」

部屋の扉を開けると、雑誌を読んでいるの姿がそこにはあった。そして俺はを見たのと同時にを抱きしめる。

「わっ、悠ちゃん重いよ…!」
「だってに会えて嬉しいんだもん!」

本当のことだった。
確かに練習の疲れがあるから早く飯食って、風呂入って、今すぐにでも寝たいと思うけど、に会ったら何もかもが吹っ飛んじゃうんだもん!やっぱりはすごいヤツだよな!

「あと悠ちゃん、誕生日おめでとう!」
「おー!あんがとな!」

はカバンから大きな包みを取り出すと、そのまま俺に差し出した。そう、これが今日早く帰りたかった理由。
毎年、は俺の誕生日を祝ってくれる特別な存在なんだ。例え野球の練習で帰りが遅くなっても、必ず当日に祝いにきてくれる。
もはや当たり前になりつつある恒例行事だけど。少なくとも、それは俺にとっては何よりも大事なことだった。

「悠ちゃんもついに16歳だねー」
はいいよなー。もう16歳で結婚できる歳なんだもんなー」

前に授業で習った。女は16歳、男は18歳にならないと結婚できないって。

「何言ってるのよ、高校生なのに結婚はまだ早いって」

くすくす笑うを見ていたら、例のあの言葉がふと脳裏に浮かんだ。

「俺が18歳になったら、結婚しようなっ!」
「えっ…?」
「だって約束しただろ?」

俺が発した言葉に驚きを隠せないでいるに対して、俺は笑いながら問いかけてみる。
しばらくすると、顔を若干赤らめつつあるが少しずつ口を動かし始めた。

「ー…覚えて、たの…?」
「もちろん!だってそれがの夢なんだろ?」

そう。小学生のころ、二人で約束したことーー…。

俺はちゃんと覚えてる。

俺たち、将来結婚して幸せになろうって。
最初はちょっと冗談のつもりだったのかもしれない。


でもと過ごしていくうち、いつの間にか大切な存在になっていて。

今の俺にはがいて当たり前の世界になっているんだ。


ー…俺にはが必要なんだよ、ゲンミツにさ。


がいない世界なんて、俺ぜってー生きてけねーもん!


「俺はのことが大好きなんだよ、ゲンミツに!!」
「ー…普通、自分の誕生日にプロポーズする人、いないと思うんだけど…」
「なんで!?俺の誕生日に俺の欲しいものを選ぶのは当然だろ!?」

俺は正直な気持ちを言っていると、は徐々に顔を真っ赤に染めていき、しまいには両手で顔を隠してしまった。

「ー…悠ちゃん、正直なのは嬉しいけど……なんか恥ずかしいよ…」

そんな行動をとるがかわいくて、俺はさらにギュッとを抱きしめた。

「俺がを幸せにしてやっから」
「ー…うん」
「ー…だから、あと2年間」

君のために俺ができること。


それは18歳になる、再来年の今日。


俺はに正式にプロポーズしようって。

そうずっと心に決めていたんだ。


だからその日まで、待っていてくれよな!