水鏡に映る三日月 | Main

水鏡に映る三日月



恋愛予報

(「本日の運勢、第一位はヤギ座の皆さんです!」)

(「勇気と決断力が要求されそう。気になる人がいる人は相手にどんどんアピールしてみよう!今までの努力が報われるかも…?」)


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最後のチャイムが鳴り響き、教室中が一気に騒がしくなる。
周りは「今回も難しかったなー」「もうテストなんてやってられるか!」など、各々叫んでる声が耳を通り抜ける中、俺は重い腰を上げ帰途につくことにした。

校舎から出ると解放感からか思わず大きな伸びをして体を伸ばすが、それと同時に重めのため息を吐いてしまった。
ー…ってか、テスト期間中はなんで部活動禁止なんだよー…。
確かに武蔵森は文武両道だから仕方ないのかもしんないけど、テスト中はストレスが溜まるからサッカーしたいのに…。

「あー…先輩に会いたいなー…」

とぼとぼと歩いてるときに、自然と口から発してしまった先輩の名前。
部活動が禁止ということは当然マネージャーでもある先輩にも会えないということ。しかも校舎内は男女で違うクラスだから、校舎内で遭遇する確立はほぼ0%に近い。先輩のにぎやかな声だけでもいいから聞きたいなー…とぼんやり考えていたときだった。

ゆっくりと顔を上げ目線を前に移すと、見覚えのある後姿が目に入る。
ー…あの髪型にあの背格好…もしかして…!!

先輩ー!!」

大きめな声で叫ぶと、俺の声に反応したのか周りをキョロキョロと見渡す先輩。
「こっちですー!」と更に付け足し、気づいてもらうため腕をぶんぶんと振り自分をアピールする。そして先輩のもとへと走り出した。

「先ー輩!」
「おー藤代じゃん」
「ちわっす!」

まさか学校の帰り道で、しかも今一番会いたかった先輩に会えるなんて思ってなかった俺は、一気にテンションが上がった。
俺の願いが神様に届いたのか!?良いことは日頃からしておくもんだな!(何もやってない気がするけど、気持ちの問題だよな!)

「どーよ、テストの出来栄えは?」
「うっ…。聞かないでくださいよーせっかく忘れてたのに…」
「忘れちゃダメでしょ、まだテスト残ってるのに」

グサッと心に何かが突き刺さる。
ー…先輩までテストのこと言わないでよー…。

「まぁそこが藤代らしいか…。ーー…ってか今さっきから、周りの目が痛いんだけどー…」

先輩の言葉に疑問を覚え、ふと周りを見渡してみる。すると周りの女子たちと目が合い、次々と目をそらして俺たちの横を通り過ぎていく。
その行動に俺は疑問符を浮かべた。

「俺たち、何か変ですかね?」
「ー…あんた少しは自覚持ちなさいよ…」

先輩の一言で更に疑問符を浮かべる。すると“ハァ”と短めなため息を吐く先輩に、なんとなく視線を移してみた。

「あんた、この学校のエースでしょうが。そのエースが、帰り道女の子と一緒に帰ってる姿なんて見たら、みんなショック受けるでしょ。もしかして付き合ってるの!?あの人彼女!?ってね」
「あ、でも先輩、彼氏いませんよね?この際付き合っちゃいます?俺なんて超おススメだよ?」
「無理」

冗談のつもりで言ったのに、即答され思わず落ち込む俺。
ー…先輩ってズバズバ言う性格だから仕方ないのかもしれないけどさー…。さすがの俺でも、落ち込むよ…。

「ーーじゃあ先輩、二年待っててください!それまで俺、自分を磨いてもっといい男になってますから!」

半分冗談だった。そうでも言わないと心が折れそうな気がしたから。
また「嫌なこった」って否定の言葉が来るに違いない、そう準備していたのにーー…。

「…だったら」

先輩の足が急にピタリと止まる。
その先輩の動きを見て、俺の足も自然と立ち止まるが俺の動きと同時に先輩は再び歩き出し、俺の横を通り過ぎていった。

「だったら、頑張って私を振り向かせてみせてよね?待ってるからさ」

俺とすれ違うと、ニッと笑う先輩が視界に入る。

「えっ…それってー…」
「じゃあね藤代!テスト頑張んなよ!」

俺の言葉を遮るかのように言うと、先輩はそのまま去ってしまった。

え、今の意味ってー…もしかして…。

急に顔が火照り出し、思わず顔を手で隠す。



うわ…どうしよう俺…。超嬉しいんだけどー…!!



先輩がどういう意味で言ったのか分からない。でもあの否定的な先輩がああ言ってくれた。−…もしかすると、俺にもまだチャンスが残ってるかもしれないんだーー!!

そう考えたら、今までにない元気とやる気が出てきた。
単純かもしれないけど、今はそれで十分。まだ時間があるし、その間に少しでも先輩の理想に近づいて、先輩を振り向かせたい。

「ーー頑張ろう、俺!!」

目の前にまだ控えてるテストよりも、遠い未来のために頑張りたい。

俺、一生懸命頑張っていつか先輩の目の前に現れるからー…。


だから待っていてよね、先輩!!