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水鏡に映る三日月



俺の宝物

ーー…5、4、3、2、1…

かちっ


<2010年、あけましておめでとうございまーす!!>


テレビから聞こえてくる新年の挨拶。
その音とともに、居間にいる家族にも「おめでとー」と各々口にしていく。


そう。

今日は1月1日。新しい年度に変わるのと同時に、俺はまた一つ歳を重ねた。

何を隠そう、俺の誕生日は1月1日で、この日はどこに行ってもお祭り騒ぎ。最初は自分の誕生日を祝ってくれるようで気分が良かったが、実はそうでもない。
小さい時、元旦が誕生日なんてものすごく嫌だったことは今でも覚えてる。だってお正月と誕生日が一緒にされるなんて不公平な気がするじゃん?プレゼントとかケーキとかいつもクリスマスと一緒にされて、俺、本当に祝われてるのかなって何度疑問に思ったか。

まぁ仕方ない問題だから、もう気にしてないけどさ。ってかもう諦めたというか…いい加減慣れた、その表現の方が正しいかもしれないけど。

みんな新年の挨拶を口にするだけで、俺に対する祝いの言葉はもう家族だけになってしまったという事実は、なんとなく悲しいなーとぼんやり考えてた時だった。

「あけましておめでとうございまーす!」

考え事をしながらこたつの温かさにぬくぬくとしていると、玄関から元気の良い声が響いてきた。
その声の持ち主は俺の幼馴染で、兄貴と同い年。毎年、挨拶回りで我が家に来てくれて、一緒に新年を過ごしている人。

そして、俺の誕生日を忘れないで必ず祝ってくれる大切な人でもある。


「お、誠二あけおめー」
「おぅ。あけおめーー」

居間に顔出すと、決まった新年の言葉をお互い交わす。

そういやの顔見たの久々だなー。俺が寮に入ってるから実家に帰れるのが長期休暇だけだから仕方ないけど、また身長伸びたっぽいな…。ちくしょーまた追い越されたな…。

「誠二ー!こたつ、私も入れさせて!!」

外の寒さに堪えたのだろう。鼻の頭を真っ赤に染めてるは、温かさを求めるためすぐさま俺の横から割り込んできた。
突然のの行動に頬を赤く染めていくが、平常を保つよう必死に自分に言い聞かせ自分を落ち着かせる。

ってか、別に俺の隣じゃなくてもいいだろ!!まぁ嬉しいけどさ…!!

「あれ、そういや誠一はどこにいるの?」

誠一は俺の兄貴のこと。
毎年兄貴と俺はテレビのチャンネル争いをしてるのが当たり前だったから、も不思議がるのも無理はないと思う。まぁそんな兄貴といえば、今部屋で友達と電話をしているっぽいから俺が勝手にチャンネル変えてるんだけどね。だって兄貴、じゃんけんマジ強ぇーんだもん。不公平だ!!

「兄貴は今部屋で電話してるー。」
「そっか。んじゃ、そろそろ誠一んとこにも挨拶しに行ってくるかー」

えっ……もう兄貴のところに行っちゃうの…?

そう思ったら、なんだか心が苦しくなった。

こたつから出てそのままの足で部屋から出ようとする
俺はそんなの服の裾を、何故か掴んで引き止めてしまった。


何故だか分からない。

ただ、に兄貴のもとに行ってほしくない。それだけははっきりと自分でも理解していた。

勿論、俺の変な行動のせいでは不思議がって首を傾げてくる。

「誠二、どうしたの?」
「ーー…兄貴んとこ行っちゃ嫌だ…」

今の自分の顔を見られないため、うつむきながら言葉にしていく。
言い訳をしたくてもいい言葉が思いつかなくて、正直な気持ちを打ち明けることにした。

どうしよう。今のでに嫌われたりしたら、どうしよう。

頭の中で嫌なことだけがぐるぐると頭の中を駆け巡っている。
こんな一方的な想い、迷惑なのは承知のはずなのに。を困らせることだけはしたくないって思ってたのにーー…。

しばらくの沈黙が続きどうしようと迷っていたら、のため息が静寂を破ってくれた。

「ー…仕方ないな。今日は誠二の誕生日だし、言うこと聞いてあげるよ」

ため息を吐きながらその場に座り込み、そのままこたつに入ってる俺の背中にぴたりとくっつけてきた。
の背中はとても温かくて、何故か涙が出そうになった。

「たまには私が背もたれになるのも、いいでしょ?」

やきもちなんてカッコ悪ぃーけど。
兄貴には敵わないかもしんねーけど。

「誠二、誕生日おめでと」

この日だけは、兄貴に譲れないんだ。

「ー…ありがと、